AI時代にコンサルへ発注する意味は、知識ではなく時間だった

自社の商品をAIで代替できるか診断したら、主力の2商品がどちらも代替される側に入りました。仕分けで残ったのは問題の発見・判断の較正・実行と責任・時間の4つ。発注者が本当に買っているものを正直に書きました。

AI時代にコンサルへ発注する意味は、知識ではなく時間だった

AIに代替されるのは知識のほうで、発注者が金を払って買っているのは時間と責任です。

これを一般論として書いているのではありません。自分の商品を同じ基準で診断したら、主力が「代替できる」側に入ったからです。

上場企業でマーケティング責任者を務め、月間1億円規模の広告費を統括していました。責任者になる前は自分で運用も担当していました。現在はMarket Engineering代表として、GA4/GTM/sGTM等の広告計測設計、広告運用代行、広告運用のインハウス移行を北九州・大阪の2拠点で支援しています。


① 自社の商品を「AIで代替できるか」で仕分けたら、主力が代替される側に入った

事業の戦略を組み直す過程で、自社の商品を一旦「AIで代替できるもの/できないもの」に仕分けました。きっかけは、自分の中にあった単純な疑問です。私以外の人がAIを使って同じことができるなら、私に発注するメリットはあるのか?

結果ははっきりしていました。

当時の商品は2つ。ひとつは計測診断パッケージ(20万円)で、成果物は不備の一覧と影響度・優先度をまとめた診断レポート。

もうひとつは継続支援(月15万円)で、成果物は月次の意思決定レポートと施策提案。どちらも成果物がレポートで、揃って代替される側に入りました。

「20万円払ってレポートをもらう」という買い方は、買い手に「これAIに聞けば済むのでは」と考える余地を残します。そして、その疑いはかなりの部分で正しいです。

GA4の仕様も、GTMの設定手順も、一般論としての改善提案も、いまは無料で手に入ります。私が持ち出せる付加価値は、レポートの体裁と網羅性くらいしかありません(書いていて気持ちのいい結論ではないのですが、事実です)。

同じ基準はこのブログにも適用しました。記事のテーマを34本並べていましたが、うち5本は「定番の一般論ハウツーで検索結果も飽和しており、AIで完全に代替できる」と判断して書かないことにしました。

以降、公開前に「これをそのままAIに聞いたら同じ答えが返るか」を必ず自問し、返ると判断した段落は削るか自分の経験に差し替えています。この記事もその基準を通してあります。

自分の商品と自分のコンテンツが、同じ判定に引っかかりました。これはコンサル業への死刑宣告に見えます。

ただし、仕分けには右側の列があります。そこに残ったものが本題です。

② 代替されるのは「知識」と「成果物の体裁」で、残ったのは4つだった

AIで代替できる 代替できない
知識そのもの(GA4の仕様・GTMの設定方法・ベストプラクティス) 問題の発見。発注者は「何を聞けばいいか」がわからず、AIはアカウントを見ていない
手順の説明 判断の較正。この数字は異常か、正常な変動か
レポートの作成 実行と責任。アカウントに入って直し、壊れたときに責任を負う
一般論としての改善提案 時間そのもの。担当者には手を動かす時間がない

問題の発見。AIは正しく質問された内容には正確に答えます。ですが発注者側の最大の困りごとは「何を聞けばいいかわからない」ことです。

詰まっているのは、質問文を作る手前のほうです。加えてAIは相手の広告アカウントもGA4も見ていません。

誰も見ていない軸は、AIに渡すデータの中にも最初から存在しません。この構造については、代理店のレポートに載っていない軸の実例を代理店のレポートを毎月確認しても、広告は最適化されないに書きました。

判断の較正。「CPAが先月比で上がった。これは異常か」に、一般論としての正常範囲は答えを持っています。ですが、それが自社に当てはまるかは別問題です。

実際の答えは、事業のフェーズ・季節性・同時に何を変えたかで動きます。当てはめを誤ると、正常な変動に慌てて予算を止めるか、静かに壊れているほうを見逃すかのどちらかになります。

実行と責任、そして時間そのもの。この2つが本題なので、節を分けます。

③ 「知っている」と「終わっている」の間にある距離

AIに聞けば、正解は数分で出ます。ただ、正解が出た時点では、仕事はまだ何も始まっていません。

たとえば「フォーム送信のコンバージョンが二重に計測されている」とわかったとします。原因も対処法もAIが教えてくれます。ここから実際に必要なのは、アカウントの権限をもらい、本番のGTMコンテナを開き、既存のタグとトリガーの依存関係を確認し、消していいものと残すものを判断し、広告側の自動入札への影響範囲を見積もり、公開し、翌日以降の数字が想定どおりに変わったかを確認する、という工程です。

数分では終わりません。そして、この工程のどこにもAIは入ってこられません。

では、実際にはどこで止まるのか? たいていここです。欠けているのは知識ではありません。この工程に充てる時間と、公開ボタンを押して壊れたときに引き受ける役回りのほうです。

後者はだいぶ効きます。正直、本番のタグを触る仕事は、社内の誰にとっても「やりたい仕事」ではないんですよね。

そして、自社がどちらで止まっているかは他人には診断できません。 判定はそう難しくありません。過去3ヶ月で「やると決めたのに着手していない計測・広告まわりのタスク」を数えるだけです。

ゼロなら知識の問題で、これはAIで解決します。複数あるなら時間の問題で、こちらはAIでは解決しません。

この数は自社の議事録とタスク管理を開かないと出てこないので、この記事を読むだけでは決まりません。私も外から見て当てることはできません。

④ だから提案は「代理店を変えてください」ではなくなった

経営者にこのサービスの話をすると、反応が2つに集中します。「既に代理店がいる」と「そもそも課題を認識していない」です。

前者に対して「では代理店を変えましょう」と返すのは筋が悪いです。そもそも代理店を変えるには相応の理由が要りますし、変えたところで構造は変わらないことが多いんですよね。

レポートの様式の外にある軸は、次の代理店でも同じように誰も見ません。②で書いたとおり、これは担当者の能力ではなく、決まったフィーの中で決まった様式を回すという収益構造から来ています。

だから提案の形を変えました。今の代理店はそのままで、発注者側に数字を見る人を置きます。

やることは単純です。代理店から届くレポートと、広告アカウントの管理画面と、GA4の数字を突き合わせて答え合わせをします。ずれていたら原因を特定し、計測が壊れていたら実際に直します。

運用そのものは今の代理店が続けます。代理店の敵対者ではなく、発注者側のセカンドオピニオンであり実装担当です。

この役割は、仕分けの右側に残った4つ(問題の発見、判断の較正、実行と責任、時間)だけでできています。レポートを1枚も作らなくても成立します。

商品の重心をレポートから実装へ移す作業は、正直まだ途中です。ただ方向は決まっています。「レポートを納品する仕事」は、AIに削られてなくなる側にあります。


よくある反論への回答

「AIが進化すればアカウントも見られるようになるのでは?」

なります。というより、広告プラットフォームやGA4のAPIをAIから叩ける環境は既にあります。ですが「見られる」と「触っていい」は別です。

誰の権限で入るのか、設定を壊したときに誰が謝るのか。ここは技術の進歩では解けません。

責任の所在の問題だからです。AIが自律的に本番アカウントを触れるようになるほど、逆に「誰が承認したか」を管理する人間の役割は重くなります。

「じゃあコンサルの知識には価値がないのか?」

知識そのものに値段はつきにくくなりました。ただし知識がなければ②の較正ができません。

知識は必要条件ではあり続けますが、十分条件ではなくなりました。「知っているから発注される」時代が終わっただけで、「知らなくてよくなった」わけではありません。

「社内でAIを使える人を育てればいいのでは?」

それが正解です。私の提供しているサービスのひとつも広告運用のインハウス移行支援で、最終的に自分を不要にする方向を向いています。ただし順序に注意がいります。

止まっている理由が時間不足なら、AIを使える人を育てる時間も同じようにありません。先に外部が入って一度動く状態を作り、動いている型を引き渡すほうが早いです。知識不足で止まっているなら、外部は要りません。

「レポートがいらないなら、何を納品してもらうのか?」

現状の答えは「直った状態そのもの」です。不備を指摘した紙ではなく、アカウントに入って直し、直った状態を保証します。同じ診断でも、この2つは代替可能性がまったく違います。

組み直している最中なので、断定的なメニュー表はまだ出せません(ここは正直、決めきれていません)。ただ、レポートを厚くする方向に戻ることはありません。


この記事の内容を自社に当てはめたい方へ。

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