代理店のレポートを毎月確認しても、広告は最適化されない
代理店の月次レポートを毎月確認しても、広告は最適化されません。
私自身がそうでした。前職では上場企業でマーケティング責任者を務め、月間1億円規模の広告費を統括していました。責任者になる前は自分で運用も担当していました。
責任者としては、毎月届くレポートに必ず目を通していました。数字を追い、疑問があれば代理店にきつめの質問もぶつけていました。それでも、後に大きな改善につながる歪みは、レポートを読み込むという行為そのものからは見えませんでした。
もとは広告運用の全額を代理店に委託していました。現在はMarketEngineering代表として、GA4/GTM/sGTM等の広告計測設計、広告運用代行、広告運用のインハウス移行を北九州・大阪の2拠点で支援しています。
① レポートは都合の悪い数字が出ない作りだった
最初に代理店への不信を持ったのは、月次レポートの作られ方でした。
数字が悪化した指標は前面に出てきません。良くなっている指標だけが強調され、全体としては「順調に推移しています」という結論に着地させるように作られています。指摘しました。
この指標も並べて出してほしい、この推移も見せてほしいと伝えました。次の月のレポートは変わりませんでした。
レポートの体裁の問題以前に、パフォーマンスそのものも良くありませんでした。良く見せる技術に労力が割かれている一方で、運用の中身は改善されていませんでした。ここまでは、多くの人が想像する「代理店任せのリスク」そのものです。
都合の悪い数字を隠されている、指摘しても直らない。不信を持つには十分な理由でした。
② しかし本当の歪みは、レポートの外にあった
①の不信とは別に、インハウス化してから気づいた事実が、もうひとつあります。
代理店から運用アカウントの中身を初めて自分の目で通しで確認したとき、地域別の予算配分が目に留まりました。全国展開している事業だったため、地域別の広告予算配分を市場規模と突き合わせて見ました。東京の市場規模は大阪の5倍以上あります。
ところが広告予算は、大阪のほうが多く配分されていました。市場規模と予算配分が逆転していたわけです。
①で書いたとおり、この代理店は自分たちに都合の悪いことが表に出ないレポートを作っていました。それは事実です。ただし地域別の予算配分については、話が少し違います。
そもそも、地域別の予算配分を市場規模と突き合わせるという軸自体が、どの代理店の月次レポートにも載っていません。売上・CPA・CVRといった指標は並びます。ただ、「この市場規模に対してこの予算配分は妥当か」という軸では誰も見ません。
では、なぜ載っていないのか? 代理店の側に立てば理由は明快です。マニュアルにない軸まで分析するのはコスパが悪いからです。決められたフィーの中で回す以上、レポートの様式の外にある分析に工数を割く動機がありません。
この収益構造がクライアントの扱いをどう決めるかは、担当者ガチャを回避せよ。広告代理店から最大限のパフォーマンスを引き出す3つの条件で詳しく書きました。
隠されていたというより、誰も見ていなかったんですよね。そして誰も見ていない軸は、隠す必要すらありません。
この逆転を是正し、東京に予算を厚く、大阪に薄くという配分に組み替えました。そしてこれは、インハウス化で見つかった改善点のひとつにすぎません。
アカウントを開いてみると、コンバージョン設定が間違っていたこともわかりました。こうした改善点をひとつずつ潰していった結果、合算すると代理店フィー以上の改善につながりました(体制づくりと計測基盤の整備は、順番に進めたわけではなく同時に進みました)。
③ なぜハイレベルな担当者でも見抜けないのか
ここが本題です。①で毎月レポートを確認していた自分は、担当者として能力が低かったわけではありません。
むしろレポートの読み方には慣れていたはずです。それでも②の歪みには、インハウス化して自分でアカウントを開くまで気づきませんでした。
では、なぜ気づけなかったのか? レポートを読む力の問題ではないからです。載っている数字が正しいかを検証することと、載っていない軸を発見することは、まったく別の行為になります。
前者はレポートの中で完結します。後者はレポートの外に出て、自社のデータを開き、市場規模なり商談化率なりの外部の物差しと突き合わせて初めて成立します。
この突き合わせは、一般化したチェックリストでは代替できません。地域別に見るべきか、流入経路別に見るべきか、商材別に見るべきかは、各社のKPI設計と事業構造次第で変わります。この記事を読んで「うちも地域別の予算配分を見直そう」とだけ受け取るのは早計です。
何と何を突き合わせるべきかは、自社のデータを実際に開いて、外部の物差しと照らし合わせてみないと出てきません。自社のアカウントを自分の目で見る作業そのものが答えを出す領域であり、他人の経験を読むだけでは代替できません。
よくある反論への回答
「AIが見つけてくれるのでは?」
見つかりません。AIは渡されたデータの範囲でしか最適化できません。②の東京・大阪の逆転は、地域別の予算とコンバージョンを市場規模と突き合わせるという、そもそもどの代理店のレポート様式にも欄がない軸でした。
渡すデータの中に、その軸は最初から存在しません。「何と何を比べるべきか」という軸の設計を人がやらなければ、AIはその軸を永遠に見ません。AIは軸が定義された後に力を発揮するものであって、軸を定義する代わりにはなりません。
「優秀な担当者を雇えば大丈夫では?」
③で書いたとおり、これは担当者個人の能力の問題ではありません。毎月レポートを確認していた自分自身が見抜けなかった以上、ハイレベルな担当者を配置するだけでは同じことが起きます。
必要なのは個人の優秀さではなく、載っていない軸を自分で決めて突き合わせる権限と体制です。誰か一人が優秀であることより、「この軸を見に行っていいのか」を判断できる立場にいるかどうかが分かれ目になります。
「インハウス化しないと無理では?」
移行までは不要です。委託を続けたまま、突き合わせる軸を発注側が指定し、レポートに含めさせることはできます。「地域別予算と市場規模の対比を毎月出してほしい」と一行加えるだけでも状況は変わります。
ただし、何を指定すべきかは自社のデータを見ないと決まりません。指定する軸そのものを外部に丸投げすると、また同じ構造に戻ります。
この記事の内容を自社に当てはめたい方へ。
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