広告代理店の定例会を、次の一手を決める場にする5つの質問

広告代理店の定例会を、次の一手を決める場にする5つの質問

転職したばかりの頃、入社5日目ほどで、ある代理店との定例会に初めて出ました。

報告では、ある広告グループのコンバージョン(問い合わせや購入などの成果のこと、以下"CV"と表記)が、前月より30件ほど増えていました。広告グループは、広告アカウントの中でキーワードや広告をまとめて管理する単位です。

ですが、アカウント全体のCVは10件ほどしか増えていませんでした。その広告グループを除くほかの広告グループの合計は、20件ほど減っていたことになります。

代理店との月次の定例会が、毎月何事もなく終わっているなら、そこで使われている説明を一度確認してみてください。

代理店の担当者は、定例会をスムーズに終わらせることが目的になっている人が少なくありません。数字が悪くなった月でも、会議を何事もなく終えるためのノウハウをたくさん持っています。

前職では上場企業でマーケティング責任者を務め、月間1億円規模の広告費を統括していました。マネージャーとして約1年半、四半期目標を平均109%程度で達成していました。もとは広告運用の全額を代理店に委託しており、毎月のレポートには必ず目を通していました。現在はMarket Engineering代表として、GA4/GTM/sGTM等の広告計測設計、広告運用のインハウス移行を北九州・大阪の2拠点で支援しています。

レポートに載っていない軸に潜む歪みは、別の記事(代理店のレポートを毎月確認しても、広告は最適化されない)に書きました。今回は、定例会の場で使われる3つの説明のパターンと、専門知識がなくてもその場で返せる5つの質問です。


① 定例会を何事もなく終わらせる説明には、3つのパターンがあります

最初に、なぜこうした説明が生まれるのかを書いておきます。担当者の資質の問題ではありません。

代理店の担当者は、決められたフィーの中で複数のクライアントを受け持っています。定例会で追加の宿題が出なければ、その分の工数を他のクライアントに回せます。定例会を何事もなく終えることは、担当者にとってそもそも合理的な行動です。

この収益構造がクライアントの扱いをどう決めるかは、担当者ガチャを回避せよ。広告代理店から最大限のパフォーマンスを引き出す3つの条件で詳しく書きました。そのうえで、発注側として受けた説明は、次の3つに分けられます。

1. 毎月、一番良かった部分の数字だけを切り出して報告する

冒頭の定例会が、このパターンです。

食い違いを指摘すると「確認して報告します」と言われたので、過去1年分のすべての広告グループの月次レポートを出してもらい、過去の定例会の資料と突き合わせました。

過去1年分のデータをみてわかったことは、毎月の定例会のレポートは、その月に一番良かった広告グループの数字だけが報告されていたということでした。しかも1年を通してパフォーマンスを確認したところ、パフォーマンスは良くなるどころか、少し悪くなっていましたが、過去の担当者はそれに気づけていなかったようです。

それまでの経緯を知らなくても、報告された部分の数字を全体の数字と比べるだけで、この食い違いには気づけます。

レポートの体裁や表示する指標を毎回変えるのも、同じパターンの別の形です。毎月のレポートをその月の資料として読む発注者は、先月と並びが変わったことになかなか気づけません。

2. 10悪くなった数字に対して、1だけの要因を説明して切り抜ける

前職で広告運用を任せていた、別の代理店での話です。ある月、コンバージョン率が10%から5%へ、半分ほどまで下がりました。コンバージョン率は、広告をクリックした人のうち、CVに至った人の割合で、重要指標の一つです。

定例会で代理店が要因として挙げたのは、ある競合の出稿強化でした。

ですが、数字をよく確認すると、その競合との重複率は10%程度でした。重複率とは、自社の広告が表示されたときに、その競合の広告も同時に表示された割合です。

仮に、重複して表示されたときのコンバージョン率が0%だったとします。残りの90%が元の10%のままなら、全体のコンバージョン率は9%です。

つまり、この競合で説明できるのは多く見積もっても1ポイント分です。下がった5ポイントのうち、4ポイント分は説明できていないことになります。

説明がつかない点は、それだけではありません。競合の出稿が強まった影響で悪化するのはコンバージョン率よりもクリック率です。なのに、なぜコンバージョン率が下がるのかの説明はありませんでした。

その競合と同じビジネスモデルで、もっと強い競合は他にもいました。その競合は規模のかなり小さい会社で、その会社が少し出稿を強めた程度で、なぜ影響が出るのかの説明もありませんでした。

それでも要因が1つ示されると、会議の場では説明がついたように聞こえます。残りの4ポイントがなぜ下がったのかは、発注側から聞かない限り話題になりません。

担当者にとっては、翌月の定例会まではその1つの対策を進めていれば説明がつきます。全体の原因を調べる工数は、かからないままです。

3. 効果の薄い施策を入れて、「1か月様子を見ましょう」と言う

数字が悪化したときに、ほとんど効果の見込めない施策、場合によっては悪化の可能性が高い施策を入れて、「1か月様子を見ましょう」と提案します。

パターン2の代理店から、その説明の後に提案されたのは、許容CPA(1件の成果に払ってよい広告費の上限)を一時的に赤字の水準まで引き上げて、その競合と掲載順位が隣り合わないようにする施策でした。

ですが、その競合との重複は10%程度です。順位を離して戻る見込みがあるのは、計算上、多く見積もっても1ポイント分です。

辻褄が合わないと指摘すると、次に出てきたのは、他のメディアに広告費を振り分ける提案でした。許容CPAの引き上げも、他のメディアへの振り分けも、広告費は減らない提案です。

辻褄の合わない説明を聞いた後だったので、私には、代理店が広告費をほしいだけに見えました。ただ、代理店の意図はわかりません。確かに言えるのは、原因の説明がつかないまま施策が決まると、その施策が効いたかどうかを判断する基準も決まらないということです。

3つに共通するのは、会議の場では筋の通った説明に聞こえることです。そして、どれも次の定例会まで数字を動かさなくても済む説明になっています。

② 3つの説明には、その場で返せる質問があります

施策の良し悪しを、発注者が判断できる必要はありません。聞くのは、説明の形を確かめる質問です。どれも、広告の専門知識がなくても使えます。

1. 全体と、すべての部分の数字を並べて出してもらう

レポートに載せる範囲と並び順は発注側で決めて固定し、定例会の前にこう依頼してください。

「アカウント全体と、すべての広告グループの数字を、毎月同じ並びで出してください」

指標は、広告費、CV数、CPA(1件の成果を獲得するのにかかった広告費)の3つで十分です。全体と部分が同じ表に並べば、パターン1のような食い違いは表を見るだけでわかります。担当者が伝えたい数字は、固定した並びの後ろに足してもらいます。

ただし、固定した指標が事業の目的とずれていると、ずれた数字を毎月確認し続けることになります。事業の目的が変わったときは、発注側から並びを作り直してください。

2. 悪化した分のうち、どれだけを説明できるかを聞く

要因の説明を受けたら、その要因が正しいかどうかではなく、寄与の大きさを聞きます。

「その要因で、悪化した分のうちどれだけを説明できますか。残りは何ですか」

パターン2の例なら、競合との重複率が10%程度とわかれば、答えは多く見積もっても1ポイント分です。下がった5ポイントのうち、残りの4ポイントの説明がまだないことが、その場ではっきりします。

「残りはまだわかりません」という答えも、それ自体は悪い答えではありません。わからない部分が見えれば、それが次の定例会までに調べてもらう宿題になります。

3. 施策を入れる前に、判断の基準を決めてもらう

施策の中身が良いか悪いかは、発注者には判断できないことが多いと考えています。判断できなくても問題ありません。施策を入れる前に、次の3つを担当者に決めてもらえば十分です。

「その施策で、数字がどこまで戻る想定ですか」

「1か月後に、何を見て判断しますか」

「想定を外れたら、次に何をしますか」

パターン3の許容CPAの引き上げなら、1つ目の質問に対して、計算上は多くても1ポイント分の回復という答えになるはずです。5ポイント下がったうちの1ポイントを戻すために、赤字の水準まで広告費をかけるかどうかは、発注者がその場で判断できます。

効果の見込めない施策ほど、1つ目の質問に数字で答えにくくなります。2つ目と3つ目が決まっていれば、1か月後の定例会では、決めておいた数字を見て、続けるか次の手に移るかをその場で決められます。

答えは、議事録に残しておいてください。1か月後に同じ質問で振り返れるようにするためです。

③ 1回で答えが出なくても、次の定例会でも同じ質問を続けてください

初めてこの質問をしたとき、担当者がその場で答えられないことは珍しくありません。準備していない質問に、その場で数字を添えて答えるのは難しいからです。1回目で答えが出ないことをもって、悪い代理店だと判断するのは早すぎます。

指摘しても翌月のレポートが変わらなかった経験は、代理店のレポートを毎月確認しても、広告は最適化されないに書きました。それ自体はよくあることで、判断が必要になるのは、毎回同じ質問をしても答えが準備されてこないときです。

同じ質問が毎回来るとわかれば、担当者は定例会の前に答えを準備するようになると考えています。何度聞いても答えが準備されないなら、疑うべきは担当者の能力ではなく①で書いた収益構造で、付き合い方を見直すサインです。

パターン1の代理店には、翌月から、すべての広告グループの数字を定例会で報告してもらいました。悪化の要因を何も説明できない月が2か月続いたため、その代理店とは解約しました。

先に数字の出し方を変え、説明を求め、それでも説明が出ない状態が続いたときの判断です。

全体とすべての部分の数字が同じ並びで出てきて、悪化の説明に寄与の大きさが付き、施策に判断の基準が決まっていれば、定例会は何事もなく終わる場ではなく、次の一手を決める場になります。


よくある反論への回答

「こうした質問をすると、担当者との関係が悪くなりませんか?」

その心配はもっともです。ただ、どの質問も担当者の説明を否定するものではなく、説明の範囲と判断の基準を確かめるものです。

聞かれることが毎回決まっていれば、担当者も定例会の前に何を準備すればよいかがはっきりします。準備の範囲が決まるのは、担当者にとっても工数の見通しが立つことになると考えています。

「代理店を変えれば解決するのでは?」

それを検討するのもアリでしょう。私もパターン1の代理店とは解約しましたが、③のとおり、数字の出し方を変えて2か月待った後です。

①で書いた収益構造は業界に共通する仕組みなので、聞き方を変えないまま代理店を変えても、定例会は同じ型に戻ることがあります。先に変えるべきは定例会で聞く質問の中身で、代理店を変えるかどうかは、その答えを見てから判断できると考えています。

「施策の中身を判断できないなら、結局任せるしかないのでは?」

施策の中身は任せてかまいません。パターン3で出てきた許容CPAの引き上げや他のメディアへの振り分けも、施策の中身の良し悪しまで発注者が判断する必要はありません。

ですが、どちらも広告費は減らない提案でした。その施策で数字がどこまで戻る想定かを先に聞いておけば、広告費を増やす価値があるかどうかは、施策の中身を知らなくても判断できます。

②の3つ目の質問は、施策の中身を評価するためのものではありません。1か月後の判断を、担当者の説明ではなく、先に決めた数字で行うためのものです。


そのまま使える一覧

次回の定例会で、そのまま使ってください。

定例会で使う質問
1. アカウント全体と、すべての広告グループの数字を、毎月同じ並びで出してください
2. その要因で、悪化した分のうちどれだけを説明できますか。残りは何ですか
3. その施策で、数字がどこまで戻る想定ですか
4. 1か月後に、何を見て判断しますか
5. 想定を外れたら、次に何をしますか

1回で答えが出なくても、次の定例会でも同じ質問を続ける
何度聞いても答えが準備されないなら、付き合い方を見直すサイン

この記事の内容を自社に当てはめたい方へ。

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