広告費月100万円未満の会社がGA4に本当に設定すべきイベントは2つだけだった
GA4の設定について調べると、「推奨イベントを全部入れましょう」「スクロール率も計測しておくと役立ちます」という記事が並びます。
全部入れてはいけません。
前職では上場企業でマーケティング責任者を務め、月間1億円規模の広告費を統括していました。責任者になる前は自分で運用も担当していました。計測環境はそれなりに整っていました。
GA4のダッシュボードには十数種類のイベントが流れ込んでいました。そのなかで、実際に広告予算や施策の判断に使っていたのは2つだけです。
現在はMarketEngineering代表として、BtoB中小企業のGA4/GTM設計・広告インハウス運用支援をしています(北九州・大阪2拠点)。支援先で最初に確認するのも同じことです。
「どのイベントで意思決定していますか?」。答えられない場合、たいていイベントが多すぎます。
「とりあえず全部入れる」が失敗する理由
GA4を導入したばかりの中小企業によくある状態があります。
- scroll(25%/50%/75%/90%すべて計測)
- file_download(PDFを1クリックするたびに発火)
- click(外部リンク全部)
- video_start、video_progress、video_complete
- 「GA4推奨イベント一覧を見てとりあえず全部オン」
悪意のある設定ではありません。「データは多いほど良い」という直感は、それ自体は間違っていません。問題はその後です。
レポートを開くたびにイベント数が増えます。「スクロール率が先月と変わった、なぜだろう」「動画の視聴完了率が低いがどうすべきか」という問いが生まれ、調査が始まり、結論が出ないまま次の月になります。
予算配分を変えたのか。キーワードを変えたのか。ランディングページを変えたのか。
実際に手を動かした施策の数は、どうせ限られています。それなのにダッシュボードには、意思決定に使われないデータが積み上がっていきます。
月1億円規模の運用でも同じでした。「直帰率が上がっている」という数字がレポートに並んでいました。それを見て何かを変えたことは、振り返ると一度もありません。
計測の目的は「データを持つこと」ではなく、「意思決定の速度と精度を上げること」です。データが増えると意思決定が速くなるわけではありません。むしろ遅くなります。
設定すべきイベントはこの2つ
1. フォーム送信(クリックまたはsubmit)
BtoBビジネスにおいて、最終的に売上につながる接点は、フォームからの問い合わせ・資料請求・申し込みです。ここが計測できていなければ、広告が機能しているかどうかの判断が原理的にできません。
設定方法は、サンクスページのpageviewをコンバージョンとして拾うのが最も安定します。実際のコンバージョン数との乖離が少なくなります。GTMのフォームsubmitトリガーは、バリデーションエラーでも発火したり、フォームツールとの相性で取りこぼしが出たりすることがあります。
ただし、計測方法の選択より重要なことがあります。dataLayerに何を入れるかです。フォーム送信時にdataLayerへ業種・規模・問い合わせカテゴリなどの情報を渡せると、GA4側で「どんな顧客がどの経路で来たか」を分析できるようになります。
計測方法はページビューでもイベントでも構いません。dataLayerに載せる情報の設計が、後述する「本当にほしい顧客だけを計測する」につながります。
GA4で計測し、Google広告・Meta広告のコンバージョンにインポートします。これが広告運用の基点になります。
2. 「本当にほしい顧客」のコンバージョンだけに絞ったCV設定
では、フォーム送信をすべてコンバージョンにすればいいのか? そこはまだ一歩手前です。もう一段階の絞り込みが要ります。
たとえばBtoB企業向けのサービスを提供しているのに、個人や学生からの問い合わせが混入していたとします。そのコンバージョンを広告の最適化シグナルとして使うと、広告は「コンバージョンしやすい人」に向けて最適化され、ターゲット外への配信が増えます。
業界によって「本当にほしい顧客」の定義は変わります。人材業界なら業界経験者か有資格者か。
BtoBなら自社がターゲットしている業態からの問い合わせかどうか。この判断基準をフォーム設計とdataLayerに落とし込み、GA4のコンバージョンとして計測するのは「対象を絞った送信だけ」にします。
前職での実務でも、コンバージョン定義をどこに置くかは繰り返し見直していました。全フォーム送信をコンバージョンにしていた時期と、絞り込んだ後の時期では、広告の自動入札の精度が目に見えて変わりました。フォーム送信全体ではなく「成約確度の高い問い合わせだけ」をシグナルにしたほうが、広告プラットフォームは「似たユーザー」を正しく学習します。
ただし「本当にほしい顧客」の定義は、他社事例をそのまま当てはめても機能しません。営業が実際に商談化させた問い合わせの共通項を、自社の過去データから洗い出す作業が要ります。
この特定作業だけは、一般論のフレームワークにもAIへの質問にも置き換えられません。自社のデータを見なければ答えが出ないからです。
方向性は一貫しています。「計測できるもの全部をコンバージョンにしない」。計測対象を増やすほど、シグナルの精度は下がります。
直帰率・スクロール率・滞在時間は見なくていい
断言します。月100万円未満の広告費であれば、この3つは意思決定に使わなくていいです。
理由は経験からしか言えません。1億円規模の運用でも、これらの数字を見て何かを変えたことはありませんでした。レポートには入っていました。
担当者も毎週確認していました。ただ、「スクロール率が下がったから入稿文言を変える」「滞在時間が短いからランディングページを作り直す」という意思決定を、私はしたことがありません。
なぜか?
直帰率は、GA4の定義変更で以前のUAとの比較もできなくなりました。そもそも「直帰した=離脱した」は必ずしも成立しません。フォームを送信して閉じるユーザーが、直帰としてカウントされることもあります。
スクロール率は、計測できていると安心感があります。ただ、「50%スクロールした人と25%スクロールした人でコンバージョン率は違うのか」を検証した結果、広告配信を変えたことは一度もありませんでした。
コンテンツ設計の参考にはなりえます。ただし、月100万円以下の予算でコンテンツ改善のABテストを継続的に回せる体力がある会社は少ないんですよね。
滞在時間は、もっと使いみちがありません。長く滞在しているから良質なユーザーとは限りません。迷っているだけかもしれません。
「それでも参考情報として持っておきたい」という気持ちはわかります。ただ、参考情報とは「あると安心するが意思決定には使わないもの」です。
それは計測コストに見合いません。GTMのタグは増えれば増えるほど管理コストがかかり、ページ速度にも影響します。
「でも他のイベントも必要では?」への回答
よく出る反論に、まとめて答えます。
「競合他社はもっとデータを取っているのでは?」
取っているかもしれません。ただ、取っているデータを意思決定に使っているかどうかは別の話です。多くの場合、大企業が大量のデータを取っているのは「分析チームが存在するから」「ツールが自動でイベントを収集するから」であって、「そのデータで意思決定しているから」ではありません。
「後から分析したくなったときのために今から取っておきたい」
これは理解できる懸念です。ただ、BigQuery(GA4の無料エクスポート)を設定しておけば、今後追加したイベントのローデータを遡及的に保持できます。
「後から取れなくなる」という不安の大半は、BQ連携で解消します。必要になってから設定しても、その時点以降のデータは蓄積できます。
「GA4の推奨イベントリストに載っているものは入れるべきでは?」
GA4が推奨しているのは「こういうイベントが計測できますよ」という仕様の提示であって、「全部入れろ」という指示ではありません。自社のビジネスモデルに照らして「これで意思決定できるか」を問い直す作業は、自分でやるしかありません。
「コンテンツマーケの効果を測るには滞在時間やスクロールが要るのでは?」
コンテンツマーケの効果測定を本格的に行うなら、個別のセッション行動より「ブログ経由でフォームに到達した数」「ブログ閲覧後のコンバージョン率」をGA4の探索レポートで追うほうが直接的です。スクロール率は中間指標に過ぎず、最終的にはやはりフォーム送信に帰着します。
要は、こうです。
設定すべきイベントは、フォーム送信と絞り込んだコンバージョンの2つ。直帰率・スクロール率・滞在時間は計測しません。「後で必要になったら」はBQ連携で担保します。
計測設定は、一度やると「もっと取れるかも」という方向に引っ張られます。その引力に負けないことが、月100万円未満の予算で広告を動かす会社にとっての実務的な正解です。
この記事の内容を自社に当てはめたい方へ。
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